Hidden Figures

今年、Natalie師匠の本の影響で、洋書を立て続けに読むようになった。Hemingway4冊、Chandler2冊、Montgomey1冊、Fitzgerald1冊、Le Carre1冊、Natalie師匠は3冊、という内訳である。


NatalieとLe Carreを除くと、他は、ほとんどが1900年から1950年代後半に書かれたもの。1番古いのが、The Sun Also Risesの1927年か…ヘミングウェイ、チャンドラーは、白人男性が主人公で、マッチョでハードボイルドな男たちが登場し、フィッツジェラルドも、いかにもアメリカの男って感じの男が描かれ、うぅ〜ん、これがアメリカ文学か…などと思ってみたりもしたが、ちょっと待てよ…20世紀前半じゃない…最近の、21世紀の現代文ってどうなっているんだろう…と感じていた時に、映画ドリームの話を聞く。


原作は"Hidden Figures"ということを知り、amazonして原著を購入し、必死で読み上げた。来週映画を見に行くことにしており、それまでに、原作を読んでおきたかったのだ。僕の英語力だと、まあ、理解度60%そこそこだな。それでも、面白かった。★★★★★である。理解度のせいもあるけど、アメリカ英語、そんなに変わんないね(笑い。)で、原著しか手に入らない…と思っていたら、ちゃんと日本語訳も出てました。訳本は読む気は最初からなかったけど、やられたって思った(笑い。)ノンフィクションなので、小説によくある感情描写や、いかにも!の波乱万丈なプロットはなかったが、主人公たちのキャリアと人生が、膨大な調査資料の裏づけの下に描かれており、主人公たちの壮大なライフストーリーとして、感動を持って読むことができた!


単なる黒人女性たちの功成り名を遂げた成功物語ではなく、本の中には複数のテーマが散りばめられていた。キャリア・人生・歴史・戦争・人権・政治・科学技術・コンピュータ・サイエンス等々、キーワードを拾ってみると多岐にわたる。


まず「マイノリティ(黒人、女性)のキャリア」「差別、gender stereotype、racismへの闘い」でありこれは、本書のテーマとして当然であろう。そして「戦争」。「戦争」特に「第2次世界対戦(対 Japan)」「ソ連との冷戦」である。「ソ連」については、中でも「スプートニク・ショック」である。その中で「戦争と科学技術の発達」「戦争と人権(公民権)」が詳細に描写されている。人権擁護の進展が、「冷戦」によって加速推進されていたことに驚いた。多少に荒っぽい言い方になるが、要は、「ソ連スプートニクを地球周回軌道にのせて、アメリカをスパイしているかもしれない、宇宙から攻撃されるかもしれない、このときに、人種だ女だ男だなどと四の五の行っている場合かよ!とにかく優秀なヤツを全部集めて開発に徹底的につぎ込んで、ソ連に勝て」って感じかな(笑い。)単純に、Martin Luther Kingの "I have a dream"だけではなかったのだ。


第2次世界大戦、V-J Dayという言葉が出てきた。Victory over Japan(日本との戦いの勝利)、1945年8月15日午後7:03(Eastern War Time)、と書かれていた。また、ムスタング(P-51)やB-29爆撃機の空力特性の計算という話も出てきて、日本人としてはちょっと複雑な気持ちにもなった。主人公3人の内、対日本戦の計算に関わったのはDorothy Vaughan(1910~2008)だけである。他の二人(KatherynとMary)は、1950年代に入所だから関わりはない。


「女性と科学・技術」「社会の変化とキャリア(仕事)」「家族と仕事」といったテーマも書かれている。まさに、サニー・ハンセンの「統合的ライフ・プランニング(ILP)」を彷彿とさせる物語である。


重要課題1:変化するグローバルな文脈のなかでなすべき仕事を見つける、重要課題2:人生を意味ある全体のなかに織り込む、重要課題3:家族と仕事をつなぐ、重要課題4:多元性と包含性に価値を置く、等が、ILPとHidden Figuresが重なるところである。


印象的な箇所として、Hidden Figures: p168,p202に、Rosa Parksという公民権運動を展開してきた黒人女性が登場する場面がある。なんと、Rosa Parksは、ILPにも登場するのである!ILP: p247, p404。p247は「多元性と包含性に価値を置く」の最終ページ、p404では、「なすべき仕事を見つける」という文脈のなかで述べられている。


以下、ILPから拾った記述である。Hansenが第二次世界大戦中の、自身の母親のことを書いた一節である。


第二次世界大戦中、男性が戦地に出向いている間、女性は戦争い協力するために工場に働きにでた。そして戦争が終わると、ほとんどの女性は、それが義務であるかのように家庭に戻った。私の母もそのような女性の1人だった。私にとって最も違和感があったことの1つに、伝統的で、被扶養者の主婦であり、結婚前に短期間だけ美容師をやっていた母が、戦時中溶接工として働きにでたことであった。彼女は、戦争が終わると、そうすることが愛国的だと考えてその仕事を辞めたが、後で私にぽつんと洩らしたことがある。「毎週給料支払い小切手をもらうのが楽しみだったのに、それがなくなって本当にさびしい」と。女性も男性と同じく、野心も期待も持っているにもかかわらず、過去においては多くの女性が、家事や子育てをするものだというステレオタイプ化された役割を引き受けてきた。しかし、それとは違ったビジョンを持ち、複数の役割をはたし家庭の内外で成功を収めたいと考える女性もいた。」ILP: p147(女性のアイデンティティとワーク・モチベーション)から引用。


Dorothy Vaughan, Katheryn Johnson, Mary Jacksonの3人は、まさに、「それとは違ったビジョンを持ち、複数の役割をはたし家庭の内外で成功を収めたいと考える女性」たちであった!


映画ドリームを見る前に…と思って読んだ Hidden Figuresが、いつの間にか ILPとつながってしまった。仮に、そのILPが理論編だとすれば、本書はさしずめ物語り編である。Hidden Figures(日本語訳版:ドリーム)は、キャリア・カウンセラー必読の書である!