最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常

ネットの書評にこの本が出ていたので、面白そうだと思って買ってしまった。反応した言葉は「秘境」「天才」「カオスな」である。僕の性格傾向からして、こういう言葉たちに弱い。「秘境」というと、椎名誠が思い浮かび、「天才」というと物理学や数学の天才のことを思い浮かべる。そして、書評文とこの言葉から、おそらく、ハチャメチャな、酒池肉林の、抱腹絶倒の思わず笑ってしまう藝大の真実!が描かれているのだろう...と期待した。で、期待とはかなり違った。とはいえ、非常に面白い。


その1.これはキャリアの本である。しかも、内的キャリアである。彼女・彼らがその美術、音楽にはまり込んでいく/いる様子が著者のインタビューによって如実に描き出されている。どうしてそれをやっているのか、やりたいのか、本人たちの言葉で描かれている。これは、大学2年のキャリア教育に関わったことがあるが、これほどまでに自分のやりたいこと、やっていることを語れる学生がどれほどいるだろう!?学生にとどまらず、大人でも。すごいや!


その2.性格タイプの本である。キャリアでいえば、Holland理論の本である、美術と音楽、絵画・工芸、器楽・声楽...僕などが数えきれないほどの専攻学科それぞれに強烈な個性があり、そこにこれまた強烈な個性を持った若者が魅かれて集まってくる。タイプウォッチングの宝庫のよう(笑い。)


その3.やはり「天才」の面白さ。「天才」の話や、ウォッチングは面白い。


前略
「モノづくりは、山田さんの中ではどんな位置づけなんですか?」
しばし考えてから口を開く山田さん。
「人生そのもの、ですかね」
「それがなくては生きていけないとくことですか?」
「いえ。他にやりたいこともないっていうか。変な言い方ですけど」


不思議なことに、三人とも燃えるような情熱をもってモノづくりをしているわけでもないようだ。
なぜだかわからないけれど、この世界に戻ってきてしまう。何をしてもいいと言われても、結局モノを作ってしまう。そんな自分に彼らも戸惑っているようだった。
なんだかふわふわした理由だな、と思っていた僕も、三人から同じ話を聞くと考えが変わってきた。
そういうものなのかもしれない。
やりたいからやるのではなく、まるで体に刻みこまれているように、例えば呼吸することを避けては通れないように、人はモノを作るのかもしれない。
中略
つまり美術が面白いからではなく・・・美術から逃れられない人が常に存在したから、あそこまでの作品が生まれたのではないだろうか?そんな気がしてくる。
後略

この文章、なかなかいいなあ!